ラスト・ゲーム

プロ野球 オリックスブルーウェーブ大阪近鉄バファローズGS神戸
 今日はBW、パリーグの今季最終戦。かつ、ローズのホームラン日本新記録への最後のチャンスであり、そして、BW仰木監督が采配をする最終戦でもある。その全てを見届けるために、のりを氏とグリーンスタジアムへと向かった。

 最終戦ということで外野自由席は入場無料。18時ごろに入ってみると、いるわいるわ。レフト側もライト側もいっぱいである。なんとかライト側に席を見つける。今日の試合、先発はオリックス・小倉、近鉄・岩隈。

 初回、打順を3番に戻したローズに早速まわって来る。しかし、ツーストライクと追い込まれた後、低めの球を打ってショートゴロ。ため息が漏れる。一方その裏、先頭の塩崎がサードゴロを打ち、これが内野安打となると大島、谷と続きノーアウト満塁。ここで岩隈がワイルドピッチで1点を失うと、ビティエロが僕の予言どおりポテンヒットでさらに1点。アリアスにもタイムリーが出て、一気にBWが3点を先制した。

 ビジョンでは毎回の間にBWの選手からファンへのメッセージが流れたのだが、みんながみんな謝ってばかりの大反省会状態。しかもなぜか視線がカメラより少し上を向いている。そのとき、小倉の頭に載っているサングラスにうつったものは…いやまあ、そりゃ読んでるでしょうけど。

 小倉がBu打線をしっかり抑えて迎えた3回裏、BWの攻撃。2塁打のシーズン日本記録を更新中の「ミスターツーベース」谷佳知の打球がふらふらっと左中間フェンスを直撃、ゆうゆう2塁へ達する。そして続くビティエロが初球をホームラン!この回、さらに岩隈を攻めてプラス1点、スコアは6-0となる。

 こうなれば注目なのはローズのホームラン日本新記録。4回裏に打席が回ってくる。しかし、力が入ったのか初球を打ち上げて、キャッチャーファールフライ。またもため息。

 最終戦ということでテープを持っている人が多いようだが、それを試合中に投げ込む不届き者がおり、試合がたびたび中断する。んで、それを回収するためにボールボーイがやってくるのだが、ライト側からテープがいくつも放り込まれて回収に時間がかかってしまっているところに、やってきたのはレフト側のボールボーイ。…しかしライト側についたときには回収が終わってしまっており、また全速力でレフトへ戻る。これに観客、特にレフト側の近鉄ファンは大ウケ。もう一度中断されたときには無事仕事をこなすことができ、レフト側に戻るとき今度はテープをひとつ落としていってしまった。残された一本のテープをセンターの中濱が拾い上げ、考えた結果ポケットに入れる。これも大ウケ。

 梨田監督は岩隈を諦め、5回から松本(今季初登板)がマウンドへ。その後も6回は宮本(今季初登板)、7回は吉川勝(今季初登板)、8回は高木、代打に藤井が出て来てBWファンがわいたところに、今度は藤崎と若手投手陣を次々と登板させる。意図は分からないが、宮本がアリアスに一発を打たれた以外は点を許さず、来年以降の台頭に期待をもたせた。

 一方、仰木監督は6回から投手を小倉から具にスイッチ。1アウトからまたローズに打順が回る。レフト側からだけでなくライト側からも声援が飛ぶ。みんな日本新記録を心待ちにしているのだ。しかし高く上がったサードフライで三たびため息。

 この日のグリーンスタジアムは、ホームからセンター方向へ絶えず強い風が吹く、まさにホームラン風。天候までがローズを応援しているのか、しかしローズのバッティングは固い。

 そして8回表、迎えたローズの第4打席。マウンド上にはまだ具。点差から考えて、おそらくこれがローズのシーズン最終打席。その時、レフト側だけでなくライトスタンドのBWファンまでが立ち上がる。そして内野席も立ち上がる。球場全体が一体となってローズの新記録挑戦を応援する。異様な球場の一体感。ボール、空振でカウント1-1からの高めの球を、ローズが強振!ボールは高く上がってセンターよりの僕が座っている方向へ!思わず「来い!来い!」と叫ぶ!が、打球はそれほど伸びることなくセンター谷のグラブの中へ。球場全体から、この日一番のため息がもれる。しかしその後、どこからともなく拍手がわきおこり、球場全体を包み込む。ここまで打ってくれて、期待をさせてくれてありがとう、その気持ちが観客全体からローズへ贈られた。

 9回、BWのマウンドへは、今シーズンまさに働き詰めであったルーキーの守護神・大久保が登場。近鉄の優勝決定試合を含め救援失敗が続いていたため心配だったが、「これさえ抑えれば終わりだ」という気迫か、二人を打ち取る。ツーアウトとなったところで、肩の故障で長いこと試合を離れていた田口がライトの守備に。ひょっとしたら最後になってしまうかもしれないブルーウェーブのユニフォーム姿。しっかり写真に収めた。大久保が、最後の川口を三振に斬ってとってゲームセット。

 試合終了後、ライト側だけでなく、レフト側まで巻き込んだ「仰木コール」が始まった。すると、球場の照明がふっと消える。スクリーンには仰木監督の8年間の映像、発言が映し出された。それが終わると最終戦終了、ならびに仰木監督の引退セレモニーが始まった。

 仰木監督の引退挨拶、各方面への感謝を表した後、最後に三塁側ベンチ前に残っている近鉄の選手達に向かって、「日本一になってください」との挨拶。レフト側スタンドはそれに歓声で答え、ライト側スタンドはレフト側に歓声を送る。その後、花束贈呈。BWのベテラン藤井、大島の次のプレゼンターは、近鉄での監督時代の優勝時のメンバー・古久保。その次には、仰木監督時代にはまだルーキーだった中村紀洋、そして梨田監督から花束を受け取り、二人で手を上げた。

 最後にBWの選手会長・田口から花束を受け取ると、マウンド上でオリックス選手による胴上げ。それだけではなく、仰木監督近鉄の選手に引っ張られ、三塁ベンチ前で近鉄の選手達からも胴上げをされた。球場全体が拍手に包まれる。このセレモニーの間、ずっと涙が出そうになってしまった。なんとか涙をこぼさないように我慢したが、声を出そうとしてもなかなか声が出せなかった。

 三塁側からグラウンドを一周するBWの選手達。仰木監督を先頭に回り、レフト側を通るときは近鉄ファンからまたも仰木コール。そしてもちろん、ライト側に回ればそちらからも声援が。なんとか声を振り絞り「お疲れ様」を言うことが出来た。ふとその時、大島選手が隠し持っていたボールをスタンドに投げ入れる。沸くスタンド。さらになぜか神部コーチもボールを持っていた(笑)。

 そうやって選手が通り過ぎていく中、最後方を歩いていたのが、FA移籍で揺れるチームリーダー田口。笑顔で突然リストバンドをはずし、スタンドに投げ入れた。ほんの2メートルぐらいのところの人がキャッチし、唖然としたが、ふと気を取り直し「残ってくれよ」と叫んだ。もちろん、移籍云々は選手個人の問題だし、いろんな条件や状況を考えて決めることなので、残ることが最上とはいえないかもしれない。でも、僕はどうしても田口に残って欲しいと感じる理由がある。

 ここまで信頼を集め、パリーグを発展させてきた、仰木彬という偉大な監督。この監督が引退するということは、これまでの監督中心のチーム、野球から、選手が中心となっていくチームへと変貌するための機会なのである。今年優勝した(予定)近鉄の梨田監督、ヤクルトの若松監督、どちらも選手を尊重した形のプレースタイルである。来年からブルーウェーブも、おそらく石毛宏典という外部からの若い監督を招き、そういったチーム作りをしていかねばならない。その中で、どうしてもチームリーダーとしての田口が必要だと思うのだ。今年の近鉄中村紀洋が引っ張っていったように、オリックスもぜひ田口が引っ張っていくチームになって欲しいのである。

 そんなことを漠然と考える僕の前を通り過ぎた田口は、今度は帽子をスタンドに投げ入れた。そのうちユニフォームを全部投げ入れて、「じゃ、サヨナラ」なんていうんじゃないかなどくだらないことを考えているうちに、セレモニーは終了した。

 最後に、オリックスファンと近鉄ファンとの間でエールの交換。今日、近鉄ファンと一体となれたことで、近鉄、そして近鉄ファンが好きになれた気がする。日本シリーズパリーグ代表として絶対勝てよ!

 球場の外に出ると、これまでに見たことがないような人の列。これで来年の春までグリーンスタジアム神戸ともお別れかと思うと、少し寂しい気もしながら帰路についた。