年に一度の祭典

Ron342001-10-14

F1日本グランプリ 決勝(鈴鹿サーキット

うおっ!!

 起きて時計を見ると9時過ぎ。完全なる寝坊である。今日は年に一度の日本グランプリ。そんな肝心なときに寝坊してしまうとは…。

 しかし、モチベーションが下がっていたのも事実。チャンピオンはシーズン中盤にしてそうそうと決定し、応援するマクラーレンシューマッハ率いるフェラーリに蹴散らされていた。悪い言い方をすれば「消化試合」である。ジャン・アレジの引退レース、休養を宣言したハッキネンの、ひょっとしたら最後の姿となるかもしれないレースという見方はあったものの、観戦意欲をかきたてるほどではなかった。チャンピオン決定後まともにF1を見ていなかったというのもあったし。

 とはいえ行かなければチケットは紙切れだし、来年までF1を生で見る機会はなくなる。もそもそと起きてバスで京都駅へ。近鉄の改札を通った瞬間、急行が発車してしまった。事前に調べた乗り継ぎダイヤによると、その列車がギリギリ間に合うリミットだったのに…。しかし、そのあとの電車に乗っていっていたら、八木駅で奇跡的に前の乗り継ぎラインに乗っかることが出来た。

 白子駅につくとコンビニで食料を買い、バス停へ向かう。いつもの午前中だと行列が出来ていて、臨時バスがガンガン出ているのだが、ギリギリの時間のためか人も少なくバスも通常バスだった。

 サーキットについたのは14時すぎ。スタートは14時半。行ったことのある人は分かると思うが、まだ間に合ったとはいえない。駐車場から遊園地入り口まで結構あり、そこを抜けてサーキットまで歩く。ひたすら早歩きだ。サーキットに近づくとエンジン音が聞こえてくる。

 サーキットに入っても油断できない。正面から入ると、当然いい席、すなわち指定席エリアにつく。もちろん僕は自由席なのでそこまで歩かなければならない。鈴鹿サーキットの1周が6キロ弱ということからも、その大きさを分かってもらえるだろうか。歩いているうちにフォーメーションラップが始まる。なんとか130Rあたりでその姿に間に合った。フォーメーションラップだからスピードもゆるいだろうし、今のうちに写真をとろうと思ったが、結構速いよ。こんなに速かったっけ?1年ぶりということで感覚がまだ戻っていないようだ(もっとも場所が高速コーナー130Rというのが問題だったのだろうけど)。

 そしてスタート。レースが始まってからも僕は歩きつづける。そしてマシンが来たところで立ちどまってそれをながめる。まずは立体交差。久しぶりのF1のエンジン音は…激しい。まさに轟音。これだけで感動してしまった。これを聞く(聞くなんて生易しいものではない。全身が揺らされるから)だけで鈴鹿に来た甲斐があったというものだ。

 写真をとりながらコースを移動している間に、場内アナウンスから「アレジ、ストップ」の情報が入る。わずか5周だ。不思議と残念という気はせず、むしろそういうものだよなといった感じだった。中嶋悟の引退レースもクラッシュで終わったが、同じような感じだったと思う(その時はテレビだったけど)。それにしても、「シューマッハ以前」のドライバーがこれでいなくなってしまった。亡くなったセナやチーム監督となったプロストと一緒に走っていて、その後現れた天才シューマッハとも同じ時代を過ごしたドライバーの引退。一つの区切りである。

 さて、僕はヘアピンを抜けてスプーンカーブの方向へ歩く。ここが目的の場所である。ヘアピンとスプーンの間は、観戦席というのは設けられていない。そして、通路がコース脇を通っていて、マシンと一番近づける場所である。金網一枚隔てたすぐそこを、音速のマシン達が次々と走り抜けていく。もちろん近いだけあって、エンジン音もすさまじく大きい。なおかつ排気の匂いが強い場所である。決して快適な観戦場所ではないが、一番F1を肌で感じることのできる場所である。金網にへばりつき、五感全てでF1を楽しめる場所。グランドスタンド前もいい席であろうが、そこにはないよさが自由席にある。

 そこでしばらくF1を堪能し、早歩きと排気と轟音でクラクラになった僕は、スプーンカーブの方へ移動した。もはやレース展開は何がなんだか分からない。コース内のアナウンスもエンジン音にかき消されている。しかし、それでいい。レース展開を見たいならテレビで見ればいい。生なら、現地でしか楽しめない楽しみ方がある。

 F1は、年に一度しか開催されない、祭。盛り上がるのにそれ以上の理由は必要ない。大観衆のそれぞれが、自分なりの楽しみ方をしている。巨大な望遠レンズで一ついい写真をとってやろうという人、スピードにただただ驚く人、前日からテントを張ってキャンプ感覚の人、レース前に盛り上がりすぎて酔いつぶれてレース中寝ちゃってる人、巨大な旗を背負いお目当てのドライバーが来るたびに声を上げる人、場内ラジオに聞き入りながらストップウォッチでタイムを計ったりしている人…。そういった雑多な雰囲気が、まさに祭といった雰囲気をかもし出す。

 どうやらレースは終わったようだ。人の流れが出口へと向かう。途中には数え切れないほどのショップと、客を呼ぶ声。それぞれグッズに身を固めたりフラッグを持ったりした人々が、名残惜しそうにサーキットを去っていく。祭りのあと。また来年のお楽しみ。朝のテンションの低さはどこへいったのか、僕もまた来年来ることを心に決める。