パーフェクト?

ソフトボール日本リーグ女子1部決勝 豊田自動織機−日立高崎(西京極)
 本当によく晴れた秋の日、西京極へ自転車を走らせた。どうも気分的に観戦意欲がわかなかったのだが、まあいつものとおり球場につけばそれも解消されるだろう。

 今回の対象はソフトボール日本リーグの決勝が地元西京極で行われることを知ってから前々からマークしていたのである。普段野球を見ている身としては、野球との差も注意してみたいところだ。

 当日券とパンフレットを買って球場に入る。カードはリーグ戦1位の豊田自動織機(以下、豊田)と、3位の日立高崎。なにやら複雑なトーナメントを勝ち上がってきた2チームである。スタンドはいかにも企業の部らしく、応援団も交えてのにぎやかムード。チームのうちわやメガホンを持った人も多い。

 そしてグラウンドに目をやると、そこには見慣れた西京極とはまた一風違った姿が。グラウンド内に更にフェンスが設けてある。外野フェンスのみならず、ファールゾーンまで囲ってあるので、野球グラウンドの中にもうひとつグラウンドを作ったような感じである。

 さらに目を引くのがその大きさ。外野フェンスは大体野球グラウンドの内外野の切れ目から数メートル後ろあたり、高さも1メートルちょっとぐらいだろうか。ベース間、投手と打席間、そしてグラウンドの大きさも、乱暴に言ってしまえば野球グラウンドの3分の2と考えれば分かりやすい。

 それ以外にも違いはたくさんある。まずマウンドの盛り上がりが無い。これは投げ方を考慮すれば当然かも。次に特徴的なのは一塁のダブルベース。普通のベースをふたつくっつけた形で、半分はオレンジ色でファールグラウンドに出ている。これも簡単に言うと、打者と守備の交錯を避けるためで、打者は一塁を駆け抜ける際にはファールグラウンド側のベースを使うというものである。

 目新しい発見が続く中、試合が始まる。オーダーが発表されたところ、どうやら指名打者は盗首位に限らないようだ。現に豊田はサードに指名代打を送っていた。そして守備隊形を見ると、外野がわりと後ろにいて内外野の間が広い。フェンスが低いのでホームランをキャッチすることも考えているのかもしれない。

 まずは一回、投手の球は…速い。なんせ距離が3分の2、時速100キロが野球での150キロに相当すると考えられる。しかも緩急がつくのだから、こんなもの打てるかと思ってしまう。実際一回は両軍まともなあたりは無かった。

 外が騒がしいので球場の端から見てみると、お隣の西京極競技場でサッカーの試合をやっている。どうやら高校サッカー京都府予選のようだ。こんな天気のいい日はまさにスポーツ日和である。

 2回表、豊田の堀口が両チーム通じての初ヒットをセンター前へ運ぶ。ここで次のシュナイダーはバント。ソフトボールにおいてバントがいかに重要な戦法なのかというのはみていればすぐ分かる。なんせ球が速くミートは難しいし、ランナーがいなくてもセフティーバントを狙った構えを多用、守備側もそれに備えすぐに動く。また、1点を争う試合になりやすい。

 それにしてもさすが日本リーグの決勝、パンフレットを見ているとあの日本が銀メダルを取り、予選でアメリカをやぶったことでも話題になったシドニーオリンピックメンバーが何人もいる。日本のエースだった高山樹里は豊田の選手だし、日本の主砲・宇津木麗華は日立高崎の4番だ(ついでに言うなら全日本の宇津木監督は日立高崎の監督である)。そして、この日の豊田の投手、ミッシェル・スミスは優勝したアメリカの投打の中心選手でもある。

 それで試合が動いたのが4回表。豊田の先頭打者・2番千葉が三塁の頭を越える内野安打。ここは送るか…と思ったら続くスミスは強打でレフト前へ。ランナー1、2塁。こうなれば1点が重要になるので、日立はバント警戒。ファースト、サードは投球とともに前進、センターが2塁のベースに入ろうとするという厳戒態勢。しかし4番DHの前川がその更に上の上を越えていくライトへのホームランを放つ。なんと3点先制。

 ところで、この回ソフトボールならではの動きがあった。豊田の選手に代打が出たが、次の守備にはその代打を出された選手がまた守備に着いたのである。これは「リエントリー」といわれるルールで、スタメンの選手(DH除く)に限り、一度交代してももう一度だけ試合に出ることができるというものだ(ただし、復帰するときは前と同じ打順でなくてはならない)。これは代打、代走など戦術面に大きく影響するだろう。

 6回表、先頭の前川が四球で塁に出ると代走で背番号1・持丸が出てきた。そして、すかさず2塁へ盗塁! 実はソフトボールは投球前のリードが許されていない。それゆえ、二盗は非常に難しいはずである。しかしそれを難なく決めてしまった。これで勢いに乗ったか2連続タイムリーでさらに2点入って差は5点となる。

 6回裏、ふと気付くと、スコアボードの日立高崎のヒット数は「0」。そして打順や記憶から考えるに、実は豊田のスミスがここまでパーフェクトに抑えている! 日本リーグの決勝で完全試合? そんなことがありえるのだろうか?

 しかし当のスミスは緊張しているのかいないのか、7回表には豪快な3ランホームランをかっ飛ばし試合を8−0と決定づけた。

 そして最終回の7回裏。二者連続三振で既にツーアウト。カウントは、1ストライク3ボールとボール先行。しかし、この試合1−3のカウントは非常に多かった印象がある。ここから空振で2−3、ファールで2球粘られて投げた8球目をバッターは見逃した。判定は……全観衆が注目した主審の判定は……ストライク! なんと三者連続三振で完全試合達成! チームメイトがかけより、監督の胴上げが行われた。そしてその後にはスミスの胴上げも行われた。

 試合後、スミスへのインタビュー。豊田に入ってなんと9年目というスミス、流暢に日本語で挨拶。さっそくインタビュアーが質問…したところ、「通訳、通訳」と。通訳にやってきたのは、キャッチャーのシュナイダー。こちらは上手な日本語でインタビューに答える。ここで気になる発言が「リーグ決勝での完全試合は2度目となるわけですが…」え? これが初めてではないんですかい! 最後までつくづく野球との違いを思い知らされた試合であった。